研究概要 |
我々は1993年度より肝炎の多発地区として知られている岡山県F町J地区で住民検診を実施してきた。本年度も引き続き同地区で検診を行い,これ迄に253人の住民がのべ793回受診し,HCVAb陽性者は203人(80.2%)であった。肝癌高危険群(HRG)に対し年2回の腹部超音波検査(US)を行い,追跡検診はのべ274人が受診してこれ迄に3例の肝癌が発見され,本年も2例の肝癌例が発見された。 B型肝炎とC型肝炎の感染状況の検討を行い,HBcAbとHCVAbの保有状況の関連をみるとodds比9.63(95%CI:4.39-21.16)と有意の関連を認め,HBV,HCVが同様の感染経路で感染した可能性が推測された。一方,夫婦55組の検討では,共にHBcAb陽性15組,片方陽性22組,共に陰性18組で,夫婦間で有意の関連は認められず(odds比2.25,95%CI:0.77-6.60),HCVAbは共に陽性36組,片方陽性13組,共に陰性6組で,夫婦間で有意の関連を認めた(odds比5.40,95%CI:1.42-20.51)。しかし,HCV genotypeは検査できた20組のうち一致したのは7組(35%)のみであった。また,HCVAb陰性例の追跡ではこれ迄に49人が2回以上受診したが,HCVAbあるいはHCV-RNAが陽性化した例は認められず,HCVは通常の状況ではさほど感染しやすいものではないと考えられた。 肝癌の早期発見には肝機能とVirus marker,AFPの検査により肝癌HRGを選定し,USを含めた追跡を行うのが効率が良いが,1.5次予防として慢性肝炎例を拾い上げて治療し,肝癌の発生自体を予防することがさらに重要である。基本健康診査で肝機能異常を認めた例に対してはウイルスマーカーとAFPを検査し,個々の例について厳重に指導・追跡していくことが必要であり,これを効果的に行うには地域の保健婦,医療機関との密接な連携が重要と考えられた。
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