農村部である愛媛県O市住民と都市部である大阪府S市住民を対象に、循環器検診に頸部超音波検査を導入することの有用性について検討した。両市住民の循環器検診成績を比較した結果、血清総コレステロールの平均値及び高コレステロール血症者の頻度はともにO市に比べてS市で高いことを認めた。また血圧値については、最大血圧値には差を認めなかったが、最小血圧値ではS市住民の方がO市住民よりも高い傾向を認めた。さらに、O市において地域特性を考慮して市内を3地区(中心部、周辺部、山間部)にわけて検討した結果、市街地である中心部に住むものでは、血清総コレステロールのレベルが他地区住民よりも高かった。このような地域差の背景として、都市的色彩の強い中心部では、パン、肉食を中心とした欧米型の食習慣が存在すること、山間部では塩分摂取の過多、肉を中心とした動物性食品の摂取不足の傾向が認められた。脳卒中発症調査の結果では、山間部では脳出血、穿通枝系脳梗塞が比較的高い発生率を示したのに対して、中心部では皮質枝系脳血栓の発生率が高かった。一方、両市住民を対象に頸部超音波検査を実施した結果、頸動脈硬化に関与する因子として、年齢以外に、血圧、脂質代謝異常、糖代謝異常、喫煙、が強く関与していることを明らかにした。さらに、循環器危険因子を多くもつものほど、頸動脈硬化所見を有する頻度が高いことを明らかにし、従来の循環器検診でスクリーニングされた対象に二次検査として頸部超音波検査を導入する必要性を指摘した。 以上、今回の研究により、生活環境が都市化すればするほど、比較的太い動脈の硬化に基づく循環器疾患の発症が危倶されること、しかもわが国では都市部、農村部を問わず、近年のライフスタイルが欧米化傾向にあることから、今後の循環器疾患予防対策を効率よく、効果的に進めていくためには、従来の循環器険診に加えて、頸部超音波検査を導入し、頸部動脈病変を有するハイリスク者を早期に把握することが重要であると考えられた。
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