加齢とともに長期にわたって血管合併症を引き起こす疾患であるインスリン非依存性糖尿病(NIDDM)は最近の日本人でその有病者の増加をまねいており、脳梗塞や心筋梗塞を引き起こす主要な誘因となっている。これらの疾患を含む循環器疾患発症を予防するには、NIDDM発症を防ぐこと、すなわちの耐糖能障害(IGT)の段階でその進行をとめる食事の取り方、運動の仕方など生活習慣を改善することが重要である。今回対象とした集団においては、NIDDMとIGTの判定は血糖値で行うが、糖負荷試験では前日の夕食の時刻や、個人内変動により左右され、空腹時血糖値が平均140mg/dl未満であっても、糖尿病と判定される場合が多かった。そこで、1984年から健康増進を目的とした総合健診を受けている勤務者のうち、初回の健康診査で、IGTと判定され非薬物的指導がなされている者を対象とし、平均追跡10年における改善状況と小集団教育と家族健康相談による保健指導の効果を検討した。初回健診時の年齢が33から49歳までで、追跡できた男子88人の内、64人に耐糖能の改善が見られた。これは糖尿病性眼障害、神経障害という糖尿病の合併症の知識が高い者ほど、有意な耐糖能の改善につながった。これらの知識を持つことが、一日の摂取あるいは消費カロリー算出と、「決まった時間に食事をとる」、「腹八分に食べる」、「なるべく歩く」といった食事や運動指導を伴う生活習慣改善よりも耐糖能の改善に大きな効果を示した。職域における健康管理チームが検診データをもとに、小集団教育、家族健康相談で、糖尿病の合併症の知識を普及し、対象者も自己学習するプログラムの確立が示された。糖尿病の合併症の知識の浸透により、耐糖能障害の血糖値改善の動機づけが耐糖能障害改善の第1義的プログラムである。さらに、可能ならば、空腹時血漿インスリン濃度、インスリン感受性を測定して、予防プログラムの終了時期(5から10年)に再評価すべきである。
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