研究概要 |
肺機能加齢低下加速に対する予防的介入を目的とした血清サイトカイン値の応用の可能性を検討するための基礎資料を得る目的で、1985年から継続して肺機能の加齢現象を観察している職業コホートを対象に、縦断的に得られた肺機能値と断面的に得られたサイトカイン値の関連性を検討する疫学研究を行った。 2年間の調査の対象者は、一部石綿を含む天然鉱物繊維を原材料とする工業用製品を製造する工場の男性従業員およそ450名で、うち1985年からのコホート研究で肺機能に関して6年以上の有効な追跡期間を持つ有する328名を解析対象とした。肺機能指標は一秒量他の通常のスパイロメトリー指標に加え、肺内時定数分布指標を解析した。サイトカインは、インターロイキン-4,-6(IL-4、IL-6)、およびインターフェロン-γ(IFN-γ)を高感度化学発光-ELISA法によって測定した。 3種類のサイトカイン値には大きな個人間変動が認められ、最頻値の100倍以上の値を示す対象者も少なからず認められた。またその分布は正に大きく歪んでおり、IFN-γでとくに顕著であった。質問票で得られたアレルギーの現病歴・既往歴との関連は、呼吸器・皮膚アレルギーともに明かではなかった。また持続性のせき・たんなどの慢性呼吸器自覚症状や、喫煙等の生活習慣関連要因とも明瞭な関連性は認められなかった。1985年からの肺機能に対して個々の対象者毎に行った年齢に対する回帰分析による肺機能の縦断指標とサイトカイン値の関連性を分析すると、いくつかの縦断指標とサイトカインの間で有意な関連性が認められた。個人間変動性が大きいのでこの結果は必ずしもサイトカインの予測上の有用性を示すものではない。まず縦断観察による個人内変動性の定量を行った上で、今後さらに対象者数を増やした研究が必要である。
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