研究概要 |
有機溶剤の代謝速度はアルコールの摂取によって影響を受けることがわかっている.このことは混合有機溶剤の曝露を受けた作業者の尿中代謝物の量から曝露の程度を把握しようとする場合,単独曝露に基づくデータを用いて評価を行うと誤りをおかす危険性があることを示唆している.また,現在の混合有機溶剤の許容濃度は,生体影響が相加的と仮定して評価するようになっている.しかし,アルコール摂取の例からもわかるように,実際は相加的ではない場合が多いと推測される.そこで本研究では,シンナーの代表成分であるメタノールおよびトルエンについて,単一成分およびこれらの混合蒸気を小動物(ラット)に吸入暴露し,共存物質の代謝に与える影響について検討した.有機溶剤蒸気をステンレス製の曝露チャンバーに導き,ラットに6時間吸入曝露した.対照群には清浄空気を曝露した.曝露終了後,ラットを代謝ケージ(一部新設)に移して経時的に尿を採取し,メタノール,トルエンの代表的代謝物である蟻酸および馬尿酸量をヘッドスペースガスクロマトグラフ質量分析法(GC/MS)および高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により測定した.また,血液を尾部から採取し,ヘッドスペースGC/MS法により血中の有機溶剤濃度を測定した.2つの成分の濃度を系統的に変えてそれぞれの代謝物の濃度を測定した結果,曝露直後の尿中馬尿酸の排泄速度は混合曝露の方が単独曝露に比較すると大きかった.また,血中トルエン濃度の半減期は混合曝露の方が有意に短かった.これらの結果から,メタノールの共存によりトルエンの代謝が亢進されることが示唆された.一方,血中メタノール濃度および尿中蟻酸排泄速度については,混合曝露と単独曝露との間に有意差は認められなかった.
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