本研究は結核菌のカナマイシン感受性試験を迅速に行うため、遺伝子診断法の開発を行った。得られた研究成果の概要を以下に示した。 1、 カナマイシン耐性菌における16S rRNA遺伝子(rrs遺伝子)の変異の検出。 Mycobacterium smegmatisの遺伝学的接合実験において確認されているカナマイシン耐性とrrs遺伝子の変異の相関性に注目し、結核菌のrrs遺伝子の1250番目の塩基からintervening sequenceの38番目の塩基までの領域(300bp)をPCRで増幅し、ダイレクトシークエンス法により塩基配列の決定を行い、カナマイシン感受性結核菌標準株と比較した。その結果、43株のカナマイシン耐性結核菌のうち29株(67.4%)にrrs遺伝子の塩基置換が認められた(position 1400:A→G26株、position 1401:C→T1株、position 1401:C→A+position 1483:G→T2株)。これに対して、カナマイシン感受性菌71株では変異は認められなかった。耐性菌に認められたこれらの変異はEscherichia cohおよびMycobacterium smegmatisで確認されているアミノ配糖体耐性に関与する遺伝子変異と位置的に合致することから、結核菌においてもカナマイシン耐性の形質発現に関与していることが示唆された。 2、 遺伝子診断法の開発 rra遺伝子の1250番目からintervening sequence(ITS)の38番目までの領域の塩基配列の解析により、感受性株では1397〜1401にTsp45I、1400〜1403にTai Iの制限酵素切断配列があるが、position 1400:A→Gの変異株ではTsp451およびTai Iの切断配列が消失し、代わりに1399〜1402にBst U Iの切断配列が現れ、position 1401:C→Tおよびposition 1401:C→Aの変異株ではTsp45IおよびTai Iの切断配列が消失していた。またposition 1483:G→Tの変異株では1482〜1486にDde Iの切断配列が現れていた。この結果より、rrs遺伝子の1250番目からITSの38番目の塩基までの領域(300bp)をPCRで増幅し、その増幅産物を4種の制限酵素Tsp 45I、Tai I BstUIおよびDdeIでそれぞれ切断し、切断されたフラグメントの長さの違いを電気泳動により確認すること(PCR-RFLP法:Polymerase Chain Reaction- Restriction Fragment Length Polymorphism)によって、rrs遺伝子の変異の有無および変異の位置の推測が行え、カナマイシン耐性菌の迅速検出が行えることが証明できた。
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