振動曝露、トルエン・キシレンを主とした有機溶剤曝露による中枢神経高次機能への影響を明らかにする目的で、事象関連電位を、振動障害患者、有機溶剤曝露労働者及び年齢をマッチした健常対照者について測定した。中枢神経機能に影響を及ぼす疾患、外傷、飲酒量、他の有害因子などへの曝露がない振動障害患者60名(前年度調査群と合算、VS群、52歳〜65歳、59.7±3.82歳)および同じ基準で選んだ健常対照者38名(前年度調査群と合算、C-VS群、51〜65歳、60.1±4.34歳)、有機溶剤曝露労働者13名(TX群、30〜57歳、47.0±8.01歳)および健常対照者13名(C-TX群、33〜59歳、52.6±6.95歳)について、NOGOポテンシャル(NOGO-P)およびP300の潜時を測定した。刺激パラダイムは、NOGO-Pにおいてはコンピュータディスプレイ画面上に示される標的画像を見た際にボタンを押さない、P300においては同じく標的画像を見た際にボタンを押すことであった。VS群のNOGO-P潜時(153±17.1msec)は、C-VS群のそれ(144.5±10.22msec)に比べて、有意に延長し(Studentのt検定、p=0.0046)、TX群のそれ(158±9.47msec)は、C-TX群のそれ(145±8.03msec)に比べて有意に延長していた(p=0.0044)。一方、VS群におけるP300潜時(486±53.0msec)はC-VS群のそれ(425±38.1msec)に比べ有意に延長し(p<0.0001)、TX群のそれ(455±49.0msec)は、C-TX群(398±22.4msec)に比べて有意に延長していた(p=0.00174)。振動障害患者及び溶剤曝露労働者において、P300潜時の延長から認知及び記憶に関連した機能の低下が、NOGO-Pの延長から運動の抑制機能の低下が示され、溶剤曝露や振動障害による記憶、認知など中枢神経高次機能への影響が、明らかになり、また、溶剤曝露や振動障害患者における不眠や易怒など抑制が不十分な症状と運動抑制と関わるNOGO-P潜時の延長との関連が推察された。
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