研究概要 |
本研究では国際的に試料を収集する必要があるため、まず簡単に採取できる材料からDNAを抽出する方法を確立する必要があった。そこで、唾液からの簡便かつ確実なDNA抽出法として、キレックス法によるDNA抽出法の有効性を確認しその実験条件を確定した。 次にミトコンドリアDNA制御領域のシークエンス変異解析に先だって、分析機器や実験条件の検討を行い、最も正確に塩基配列を解読できる実験条件を確立した。その結果、ミトコンドリアDNAの塩基配列の決定には現在のところ1回の実験では1%程度のエラーが生じうるため、少なくとも2回以上、できればラベリング方法を変えて実験することが望ましいことが判明した。 さらに、人種差を明らかにするため、1000塩基対を越えるミトコンドリアDNA制御領域のうち、塩基番号16158-16192の35塩基内の11塩基の部位が特に変異が多いことを見出し、それを超可変領域として、6型に分類する体系を見出した。 その結果日本人と欧州人は65%以上がA型で、台湾人と中国人、モンゴル人ではA型が約40%であり他の型の出現頻度にも類似性があったため、これらの人種の類縁関係、ないし変異の共通性が示唆された。なお、ミャンマー人とマレーシア人では、A型の頻度は20%未満で、C,D,E型は僅少であり、他人種にはみられない9種以上の特異的なDNA配列パターンが出現していた。人種によって稀な特異な変異型が存在することは、いくつかの人種においてはミトコンドリアDNA高変異領域による人種鑑別が可能であることを見出した ただし同一人種内では必ずしも塩基変異は多くなく、また塩基変異には16182、16183、16189のように連鎖傾向をもって変異する部位もあり、ミトコンドリアDNA高変異領域の多型は複雑な構造を有することが判明し、さらに究明を要する問題点も明らかになった。
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