研究概要 |
前年度報告したヒト精漿から精製した分子量38kDaの蛋白質(以下,38kDa蛋白質)の性状を知る目的で,N末端領域のアミノ酸配列の分析を行ったところ,N末端アミノ酸はアスパラギン酸のみが検出され,以下スレオニン,イソロイシン,イソロイシン,プロリン,アラニン,バリン,プロリンという配列であることが判明し,更にアミノ酸配列既知の物質とのホモロジー検索を試みたところ,ヒトフィブロネクチン(以下,FNと略す)の内部配列のN末端から1230番目のアスパラギン酸から始まる8残基と完全に一致することが判明した.そこで,FNとの異同を38kDa蛋白質をウサギに免疫して得た抗血清と市販の抗FN抗体を用いて検討したところ,抗38kDa蛋白質血清はFNの標品と,抗FN抗体は38kDa蛋白質標品と,それぞれ反応し,38kDa蛋白質はFNのフラグメントであると考えられた. 以上の成績より,38kDa蛋白質はFNと共通の抗原性を有し,今回判明したN末端領域のアミノ酸配列と分子量から推定して,FNの細胞接着活性に不可欠なアミノ酸配列,アルギニン,グリシン,アスパラギン酸,すなわちRGDモチーフといわれる部位をも含めた1238番目から1509番目までの細胞接着ドメインのほぼ全域と一致すると考えられた. 次に,38kDa蛋白質の男性生殖器における局在と,精漿中の含有量を,免疫組織染色並びにELISA法にて行った.その結果,38kDa蛋白質は精襄並びに精巣上体局在すると考えられ,精漿中の平均含有量は996μg/mlであった.
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