研究概要 |
本年度は,種々の神経線維構成成分に対する抗体を用いた免疫組織化学によって,頭部外傷に基づく神経線維(軸索・髄鞘)の形態的変化を観察し,神経線維損傷の早期診断が可能であるか否かについて検討を行った。 まず,法医解剖例8例の脳梁標本を用いてパラフィン切片を作製し,8種類の軸索構成蛋白,すなわちneurofilamentの4つのsubunit(NF-L,M,pH,nH),mitochonsria(MT),amyloid precursor protein(APP),neuron-specific enolase(NSE)に対する抗体を用いて軸索を染色したところ,NSE,APP,NF-M染色によっては,頭部外傷早期死亡例の軸索が染色され,頭部外傷を伴わない対照例の軸索は染色されないことがわかり,これら3染色の有用性が示唆された。 そこで,解剖例数を35例に増やして,これらNSE,APP,NF-M染色の有用性をさらに検討したところ,頭部外傷受傷後30分しか生存しなかった例においても,脳梁にaxonal bulb(AB)と称する球状の軸索が検出された。それ以上生存した例ではより大きなABがさらに多数検出された。これら3染色を比較すると,NSE染色によって,より明瞭なABが検出されたため,この染色が最も有用であるものと考える。 一方,髄鞘構成蛋白,すなわちmyelin basic protein(MBP)やproteolipid protein(PLP)に対する抗体を用いて髄鞘変化を検討したところ,頭部外傷受傷後2日以上生存した例の脳梁には,髄鞘成分の球状化像(myelin globoid)が多数認められた。しかしながら,それ以外の髄鞘の損傷変化像は認められなかった。 現在、さらに早期に死亡した例における神経線維の損傷変化の証明を目指し,脳梁以外の部位やglia細胞の変化についても検討を進めている。
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