研究概要 |
本年度は,頭部外傷におけるastrocyteの動向,特に早期におけるastrocyteの変化について検討を加えた。頭部外傷例18例,頭部外傷を伴わない対照17例の脳梁について,glial fibrillary acidic protein(GFAP),S100蛋白,vimentin,lamininに対する各抗体を用いてastrocyteを免疫組織染色した標本を作製し,観察した。 GFAPやS100染色によれば,受傷後7日以上生存した例ではreactive astrocyteが認められ,9時間から7日間までの生存例にはastrocyteの腫大像と,いわゆる突起崩壊像(clasmatodendrosis)が認められた。さらに,受傷後1時間以内に死亡した7例の全てには,ごく短時間で死亡した例も含めてastrocyteの核濃縮像と突起崩壊像が認められた。 次に,vimentinやlaminin染色によると,対照例の多くは上衣下や柔膜下のastrocyteのみが染色され,脳梁内部のastrocyteは染色されなかった。しかしながら,頭部外傷例のうち,GFAPやS100染色によってastrocyteの変化がみられた例においては,脳梁内部にもvimentinやlaminin陽性のastrocyteが認められた。 昨年度までの軸索等の検討により,従来の方法に比べ飛躍的に短時間の軸索変化が検出できるようになったものの,なおやはり時間的制限に縛られている。今回,受傷後すぐに死亡した例においてもastrocyteの核濃縮・突起崩壊像といった変化が明瞭に認められたため,特に早期に死亡した頭部外傷例の脳組織検査に,astrocyte変化の検討が有用である可能性が示唆された。しかしながら,この所見は対照例の一部にも認められたため,頭部外傷に基づく変化とするには,他の所見も含めて総合的に検討する必要があるものと考える。なお,vimentinやlaminin染色も,主として変化のあるastrocyteのみが染色されるため,観察が容易で有用な方法と考える。
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