通常食と高脂肪食で飼育した去勢雄ラットを対象に、ジヒドロテストステロン(DHT)の心血管系及び血漿脂質に及ぼす影響を調べた。正常食のDHT処置ラットでは右心室壁と両心房重量が未処置ラットよりも有意に大きく、体重比でも同様な結果を示した。心機能は、頚動脈の最大収縮期圧と心拍数の積値をその指標とすると、DHT処置のラットの方が有意に低かった。右室機能はDHT処置の有無にかかわらず殆ど変化がなかった。呼吸機能では、呼気CO_2ガスに有意な減少がDHT処置ラットでみられた。一方、同じホルモン処置した肥満ラットでは、心重量やその体重比が有意に大きかった。これは右心室壁や両心房重量の増加に加え、心室中隔の有意な増量に因るものであった。この時の心機能はDHT未処置の肥満あるいは非肥満ラットと比較して有意に低かった。呼吸機能では呼吸数に有意な増加と呼気CO_2ガスに有意な低下がDHT処置ラットでみられた。従って、本研究においてDHTは主に右心室および両心房に対して肥大効果を有し、心血管機能では抑制効果、それに呼吸換気機能では促進効果があり、特に後の二つの効果は肥満ラットおいて比較的に強まることが示された。 血漿脂質では、DHT処置した正常および肥満ラットのグループは共にTCが未処置の対照ラットと比較して各々有意に低い値であった。DHT処置した正常および肥満ラットではHDL-Cが有意に低く、LDL-Cが有意に高い値を示した。これらの正常と肥満ラットにおいて、TCでみられたように、HDL-Cに対するDHTの効果には差がなかった。だが、LDL-Cに対する効果では正常よりも肥満ラットの方が高かった。その効力は前者で38.6%、後者で56.8%であった。TGでは、血漿レベルにおいて両者はDHT投与によって増加した。だが、その効力は肥満ラットの方が低かった(それぞれ86.7%および63.3%)。従って、肥満状態においてLDL-Cに対する外部投与によるDHTの影響から、このホルモンは心血管系に対して有害な作用を有することが示唆された。
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