研究概要 |
ラット腹腔内に致死量(200mg/kg)およびその1/10量のパラコートを投与してiNOSならびにlnterleukin-1 βのmRNA発現レベルを肝臓、腎臓、肺臓の各臓器で経時的に検討し,パラコートによる急性毒性とNOとの関連について調べた。lnterleukin-1 βは、とくにiNOSmRNAの促進に関与するサイトカインの1つとしてよく知られている。20mg/kg投与群では,実験期間中顕著な中毒症状や死亡例は観察されないが(無症状群)、200mg/kg投与群は投予後1時間で異常歩行、3時間では伏臥位、眼瞼からの出血など中毒症状が強く観察され、6時間以内に全例が死亡した(致死群)。RNAを臓器から抽出し、RT-PCR法で検討した結果、以下のことが明らかとなった。1)肝臓でのiNOSmRNAの発現について、とくに致死群で投予後1時間までの顕著な抑制、つづいて投予後3時間では有意な促進が観察され、パラコートがiNOSにたいして二峰性の影響を与えることを示した。他方、腎胃および肺におけるiNOSmRNAへの影響は、無症状群、致死群ともに観察されなかった。2)肝臓におけるlnterleukin-1 βmRNAへの影響は、致死群および無症状群ともに常に抑制されており、致死群ラットでの認められたiNOSmRNAの変化がInterleukin-1βと関係ないことが示唆された。3)腎、肺におけるInterIeukin-1βmRNAの発現レベルは、投予後の経過時間に依存していた。すなわち、無症状群では、腎、肺ともに24時間をピークにし48時間でベースレベルにもどった。一方、致死群については、腎では1時間でのピークが観察されたが、肺では、その発現レベルが経過時間とともに促進していた。以上、パラコートによる急性期の作用として、肝臓ではNOによる影響が強いと考えられるが、肺臓では、NOではなくlnterleukin-1βなどサイトカインが強く影響することを示唆するものであった。ただ、昨年in vitroで示唆されたパラコートとcytokineのiNOSmRNA発現に対する相乗効果については分からなかった。 今回われわれは、致死量投与による急性期中毒について報告した。もちろん法医学的にはこの致死用量での影響も非常に重要であるが、パラコートの主たる毒性は数週間にも及ぶ肺障害である。今後さらに慢性期の肺障害に焦点を当てて研究を継続していく予定である。
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