本研究ではパラコートの毒性発現に対するNOの関与を解明すべく、ヒト肺胞上皮細胞由来のA549細胞を使ってin vitroで研究し、つづいてラットにパラコートを投与し、パラコートが生体に与える急性期の影響を、iNOSとinterleukin-1βの転写レベルから検討した。その結果、in vitroの研究においては、cytokine共存下にパラコートを加えると、iNOSmRNAの発現が相乗的に促進され、NOの産生が増加し、パラコートに対する細胞の防御機構が示唆された。他方、パラコートがNO供与剤と共存すると、多量のNOはおそらくパラコート由来のsuperoxideとの反応生成物(peroxinitriteなど)を介して細胞障害に関与することが分かった。つぎにラットにパラコートを投与した後、経時的に臓器からRNAを抽出し、RT-PCR法によってラットに対する致死量パラコートの影響を観察した。その結果、肝臓でのiNOSmRNAの発現については、投与後1時間までの顕著な抑制、つづいて毒性が顕著にみられる投与後3時間での有意な促進が観察され、パラコートが肝臓でのiNOSにたいして二峰性の影響を与えることを示した。さらに肝臓におけるInterleukin-1βmRNAへの影響は、致死群および無症状群ともに常に抑制されており、致死群のラットで認められたiNOSmRNAの変化がInterleukin-1βに関係ないことが示唆された。他方、腎および肺におけるiNOSmRNAへの影響は、致死量および低用量のパラコートではともに観察されなかったが、両臓器でのInterleukin-1βmRNAの発現レベルは、投与後の経過時間に依存した。とくに致死群については、肺での発現レベルが経過時間とともに促進していた。これらの結果から、パラコートが生体に与える急性期の影響として、肝臓ではNOによる作用が強いと考えられるが、肺臓では、NOではなくInterleukin-1βなどサイトカインが強く作用することが明らかとなった。
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