ファージディスプレイ法の信頼性を確認するため、抗DNA抗体産生細胞株NE-1より、この方法で、もとのモノクローナル抗体と同様の機能、構造のリコンビナント抗体が作成出来るかを調べた。NE-1より、mRNAを抽出し、抗体遺伝子を増幅して、ファージ表面にリコンビナントFabを発現させるシステムで、DNAに対する結合活性をもとのモノクローナル抗体と比較検討した。その結果、二本鎖(ds)DNAより一本鎖(ss)DNAにより高い特異性を示すこと、もとのモノクローナル抗体と同様のイディオタイプを発現していること、抗体可変部分の塩基配列の解析でNE-1と同一の配列が確認できたことより、もとのモノクローナル抗体とほぼ同一のリコンビナント抗体が作成できたことが確認された。 次に、ファージディスプレイ法でSLE患者末梢血リンパ球よりモノクローナル抗DNA抗体(リコンビナントFab;rFab)を作成を試みた。その結果、固相化DNAに結合する8個のrFabクローンが得られた。8個のうち6個のクローンはdsDNAに結合することがクリチジアアッセイにより確認できた。 8個のFabクローンの塩基配列の決定により興味ある結果が得られた。軽鎖(κ鎖)は様々なgermline遺伝子由来だったが、H鎖はすべて、VH26由来でCDR3部分も非常によく似ていた。この結果は8つのクローンのH鎖がいずれも遺伝子再構成を経た1個のB細胞に由来していることを示唆している。塩基配列の類似性からクローン間の系統樹を推測すると、3つのグループに別れることが推測された。同じグループ、Bグループ、Cグループでは系統樹の先のほう、すなわち、より突然変異を繰り返したクローンがよりdsDNAに高親和性の傾向があることが示された。このことは、抗原刺激によりB細胞の抗体遺伝子に体細胞突然変異が起こり、抗体としての特異性、親和性が高まるという考えに一致する。 今回の研究からファージディスプレイ法は自己免疫疾患患者の末梢リンパ組織から、特異性の高いリコンビナントモノクローナル自己抗体の作成に極めて有用であり、自己抗体遺伝子の解析にも威力を発揮することが判明した。
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