研究概要 |
慢性関節リウマチ(RA)患者の関節水腫部位より採取した関節液についてその肝細胞増殖因子(HGF)濃度が著明に上昇しており,炎症性の浸潤細胞より産生されていると考えられていたが,関節腔内では多形核白血球(PMN)のみが肝細胞増殖因子を産生していることが,培養上清中の経時的な増加,mRNAのPMNでの特異的な発現より明らかになった。さらに,HGFが,RA患者の骨髄でも著明に上昇していること,骨髄球系分画より産生されていることも明らかになった。RAでは全身性に骨髄球系の細胞がこの物質の産生能を獲得し,この疾患の病態に関与していると考えられた。SLEなどの好中球増加が見られない膠原病においてはHGFの増加は末梢血,骨髄液および関節液には見られなかった。RAにおける関節炎の特徴は滑膜の異常な増生をともない種々のサイトカインが局所で上昇していることである。傍関節性骨粗鬆症の一つの要因に考えられているサイトカインはIL-6であるが関節液中ではHGFとIL-6濃度は正相関する。さらにRAにおいて炎症局所である関節液中に動員され活性化していると考えられる付着性の多形核白血球がHGFを産生することは、RAの関節炎の病態形成にHGFが重要な役割を果たしていることを強く示唆している。一方、活性化した付着性の多形核白血球細胞の培養液中HGF濃度の上昇は培養開始24時間後から72時間後までのあいだで1,25(OH)_2D_3に濃度依存性に抑制された。この操作は細胞のバイアビリティーには影響せず,活性型ビタミンDは免疫担当細胞の分化に促進的に働くことが知られていることから,ビタミンDによりHGF産生が抑制的に調節を受けていると考えられた。われわれの以前の研究で関節液中でビタミンDの1α水酸化酵素活性が上昇していることを見いだしているが,以上のことよりこの酵素活性上昇は防衛的な反応であると考えられる。HGFは最近の研究では強力な血管新生作用を有することが明らかにされている。これらのことよりRAの滑膜増殖の早期に浸潤するPMNが特に血管に富んだ炎症性滑膜の増殖に関与していることが示唆された。
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