研究概要 |
近年,我が国ではコレステロール(以下,Ch)胆石症が急増しているが,その原因や予防法は解明されていない.本研究では,我が国のCh胆石症増加の背景として魚油(n-3多価不飽和脂肪酸;エイコサペンタエン酸)摂取量の減少が重要ではないか,との仮説に基づき,エイコサペンタエン酸(EPA)のCh胆石形成に対する効果と機序を明らかにすることを目的とし,本年度は「ハムスター実験胆石モデルにおけるEPA投与の胆汁脂質組成および胆石形成に対する効果」を検討した. ハムスターを,1)通常食群,2)胆石形成食群,3)胆石形成食+EPA100mg/kg群,4)胆石形成食+EPA300mg/kg群,5)胆石形成食+EPA1000mg/kg群の5群に分け,6週間飼育後,胆嚢内の胆石形成率を判定した.同時に,胆汁中のCh結晶の観察(偏光顕微鏡),胆汁中のCh,リン脂質,胆汁酸の定量(カートリッジカラムにより抽出後,酵素法キットにより)および胆汁リン脂質中の脂肪酸組成の分析(ガスクロマトグラフィー法)を行った.その結果,胆石形成食+EPAの3群(100mg/kg,300mg/kg,1000mg/kg投与群)における6週後の胆石形成率は,各々,2/20(10%),2/20(10%),1/20(5%)と,いずれも胆石形成食群(10/27,【.vertically divided circle.】%)に比し有意に低率であった.EPA投与群では胆石形成食群に比し,胆汁中Ch飽和度に変化はみられなかったが,胆汁中のEPAの増加,アラキドン酸の減少およびリン脂質濃度の増加が認められ,Ch結晶の形成が有意に抑制されていた. 以上,本研究により,EPAの経口投与がCh胆石生成を抑制することが新たに明らかとなった.胆汁中のアラキドン酸の減少およびリン脂質の増加によるCh結晶析出の抑制が,その機序と考えられた.現在,ヒトにおいてもEPA投与により同様の薬理効果が得られるのかどうか,検討を行っている.
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