研究概要 |
近年,我が国ではコレステロール(以下,Ch)胆石症が急増し,予防法が問題となっているが、本研究では,n-3多価不飽和脂肪酸(魚油;エイコサペンタエン酸(EPA))摂取量の減少が要因ではないか,との仮説に基づき,エイコサペンタエン酸(EPA)のCh胆石形成に対する効果と機序を明らかにすることを目的とした。平成8年度に「ハムスター実験胆石モデルにおいてEPAの経口投与がCh胆石生成を抑制すること」を新たに明らかにした.この際,胆汁では,総リン脂質(PL)濃度の増加およびEPA含有リン脂質の増加,アラキドン酸含有リン脂質の減少が認められ,Ch結晶の析出が有意に抑制されていた.そこで,本年(平成9年)は,EPAがin vivoでCh胆石生成を抑制する機序をさらに明確にするため,1)人工胆汁を用いてChの結晶析出に対するEPA含有リン脂質の影響,および2)培養細胞を用いてEPAが胆嚢上皮のムチン分泌に与える影響をin vitroで検討した。 その結果,1)人工胆汁の実験では,胆汁中リン脂質の量的増加は,含有される不飽和脂肪酸種によらず、Ch担送体であるベジクルのCh飽和度(Ch/PL比)を低下させるとにより,胆汁中Ch析出を強力に抑制することが判明した。この効果は,胆汁酸の増加に比し,より有効であった。2)一方,培養胆嚢上皮細胞を用いた実験では,EPAは,アラキドン酸カスケードを介したPG E_2の産生とムチン分泌を抑制し,アスピリン様作用を示すことが判明した。 以上,本研究により,EPAの経口投与がCh胆石生成を抑制する機序(胆汁中リン脂質の増加によるCh析出の抑制とアラキドン酸誘発胆嚢ムチン分泌の抑制)が新たに明らかとなった。
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