研究概要 |
わが国において,Helicobactor pylori(HP)感染は高頻度でみられるが,宿主側の胃粘膜障害の程度は症例により様々である.HP持続感染による胃粘膜萎縮と胃癌発生との関連が議論されるなかで,HP感染症の病態規定因子の解明は特に重要であると考えられる。そこで本研究では,HPの一部の株が持つ細胞空砲化毒素であるVacAと患者病態との関連性を検討している. 平成8年度の検討により、わが国のHP臨床分離株ではVacA陽性株が圧倒的に多いことが示された.すなわち,(1)VacA遺伝子S領域の塩基配列解析により,わが国のHP臨床分離株のほとんどは毒素分泌型のS1タイプであること,(2)培養細胞を用いた検討において,大部分のHP分離株培養上清に細胞空砲化活性がみられること,(3)HP感染者血清中に特異的な抗VacA抗体が高率でみられることが判明し,また,(4)いずれの方法でみてもVacA陽性率は宿主側の病態,すなわち胃粘膜萎縮の程度や胃・十二指腸潰瘍,胃癌の有無などとは関連無く高値であった.これらの成績は既に学会などに発表し,現在論文化しつつある. 従来の海外からの報告では,VacA陽性株は十二指腸潰瘍症例などから高頻度に分離されるといわれているが,今回本研究で得られた成績からは,少なくともわが国において,この毒素が宿主病態を規定する主要因子であるとは考えにくい.ただし,VacAが高頻度で陽性であることが,わが国のHP感染症の病態を特徴づけている可能性は考えられる.このような観点も含めて,本研究を続行している。
|