研究概要 |
レチノイドによる肝発癌抑制をテーマとして,一貫して研究を進めてきた。その結果,肝癌根治療法後の二次発癌を有意に抑制できることを1996年に発表し得た(N Engl J Med 334 : 1561-1567,1996)。またその作用機序は,分化誘導とアポトーシス誘導によるものであり,前者は核レチノイドX受容体を介するものであることを従来明らかにしていた。本年度の重要な成績は,以下の2点である。 1 臨床成績のさらに詳細な検討により,非環式レチノイドがαフェト蛋白L3分画の産生を特徴とする特定のクローンを除去(clonal deletion)あるいは発生抑制(clonal inhibition)することを見出した(Clin Cancer Res,印刷中)。これは,先に明らかにしていた培養細胞株でのレチノイドの作用機序(αフェト蛋白mRNA発現の抑制)が,実際ヒトでも起こったことを示す極めて重要な知見である。 2 非環式レチノイドの責任受容体である核レチノイドXレセプター(RXR)が肝癌組織では分子変異を来していることを見出した(Mol Cell Endocrinol 121 : 179-190,1996)。変異の部位はAドメイン,Eドメイン各一カ所のPEST領域と考えられ(Biochem Biophys Res Commun 225 : 946-951,1996),現在DNA解析を進めている。この知見は,変異を来したRXRという分子を標的として,そのリガンドである非環式レチノイドを用いるという,大きな発癌予防の戦略を支持するものとして,極めて重要である。
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