H.pylori感染と胃酸分泌との関連については一定の見解はない。そこで、H.pylori感染の胃液pHに与える影響について検討した。 H.pylori陽性の消化性潰瘍患者、及び、H.pylori陰性者を対照とした。内視鏡検査時に胃液採取し、pH及びアンモニア濃度を測定した。前庭部大彎及び体上部大彎より生検し、組織所見をシドニーシステムに準じて検討した。消化性潰瘍患者についてはPPIを6〜8週間投与し、治療開始後の2週間に抗生剤投与を行い、治療の前後で血清ガストリン値とともに比較検討した。 治療前の組織所見では、胃潰瘍(GU)、特に胃体部胃潰瘍は、十二指腸潰瘍(DU)に比して特に体部の萎縮が進行し、胃炎の活動性が高く、H.pylori数も有意に多かった。治療前の胃液pH、血清ガストリン値はGU、DU、健常群の準に高かった。消化性潰瘍群の胃液中アンモニア濃度は対照群より有意に高かったが潰瘍の部位別には有意差は認めなかった。 除菌成功群では胃液pH、アンモニア濃度、血清ガストリンは有意に低下したが、非除菌群では有意な変化を認めなかった。除菌により胃炎の活動性、炎症所見の有意な改善を認めたが、非除菌群では有意な改善は認めなかった。粘膜萎縮や腸上皮化生には除菌の成否に関わらず有意な変化は認めなかった。 今回の検討では、胃体部の胃炎の重症なほど胃液pHが高く、胃体部胃炎が胃酸分泌抑制に関わっていることが示唆された。特に除菌後の胃酸分泌に伴い、胃体部胃炎の内、H.pyloriの菌量、活動性、炎症性変化が最も大きく改善したのに対し、萎縮や腸上皮化生が十分改善しなかったことから、H.pylori菌体自身や、炎症性の変化が胃酸分泌抑制に関与していると考えられた。つまり、H.pylori感染があり、胃体部での菌量の増加や、胃炎の重症化が酸分泌能を障害し、そのため代償性にソマトスタチンの低下とガストリンの分泌増加を来すことが考えられる。そして、体部胃炎の進行、体部の菌量の増加と伴い高ガストリン血症で酸分泌低下は代償されず、GUの様に低酸を示すようになると考えられる。そして、H.pyloriの除菌によって、炎症の改善とともに酸分泌は改善してくるのである。
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