研究概要 |
Tissue inhibitor of metalloproteinases(TIMPs)は、コラーゲン分解酵素であるmatrix metalloproteinases(MMP)を不活化する。TIMPsには、これまでにTIMP1,2,3が同定されており、いずれもMMPを不活化して線維化を促進する方向に働く。一方、TIMP1は赤芽球系幹細胞の増殖因子であるerythroid-potentiating activity(EPA)とアミノ酸配列が全く同じであり、赤芽球系幹細胞の増殖を促進することが報告されている。増殖因子としての作用は、このほかいくつかの細胞で確認されている。肝臓においてこれまでTIMPsは、線維化との関係で論じられてきたが、肝細胞あるいは肝癌細胞に対して如何なる程度に増殖作用を有するかについての検討は全くなされていない。本研究は、TIMPsの肝臓における増殖因子としての作用を検討したものである。肝癌培養細胞のHepG2、Huh7、PLC/PRF/5を用い、培養液中のTIMPsの濃度を測定することによりTIMPs産生能を検討するとともに、TIMPs添加による上記細胞の増殖能の変化を検討した。肝癌細胞株はTIMP1,2,3を産生し、TIMPsは肝癌細胞株に対しオートクライン因子として働く増殖因子であることが明らかになった。ラット肝細胞に対しては、bovine recombinant TIMP-1は増殖作用を有していたが、ヒトTIMP-1は増殖作用を示さなかった。肝臓に分布するTIMPsは、MMPの不活化のほかに増殖因子としても機能することが判明し、各種病態との関係の解明が待たれる。
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