肝胆道系の接点である肝毛細胆管膜は、種々の物質の排泄機構として各種疾患の病態生理に深く関与している。特に、肝脂質代謝回転の動的制御システムとして、脂質排泄の量的および質的制御において中心的役割を果たしている。一方、胆汁中でのリン脂質分子種の疎水性強度は、胆汁脂質の存在様式の物理化学的安定性を規定していることから、肝排泄機構におけるリン脂質分子種選択制御システムの解明は臨床的に極めて重要である。この命題に取り組んだ本研究では、以下の事実を解明した。 1.肝ミクロソームから毛細胆管膜への脂質輸送を担うヴェジクルは、毛細胆管膜内層と癒合して脂質を膜二重層へ供給する際、両者の膜構成リン脂質のアシル鎖脂肪酸の不飽和度の強弱によって癒合速度が規定される。 2.胆汁うっ滞状態では肝内性・肝外性に関わらず、肝毛細胆管膜を構成するリン脂質分子種の疎水性強度は上昇し、人工膜ヴェジクルとの癒合性は低下するが、リン脂質輸送タンパク(mdr2-P糖タンパク)の発現は変化せず、その関与は否定的である。 3.毛細胆管膜ではその恒常性維持機構として、リン脂質分子種間での脂肪酸の転送が行われている可能性がある。 肝から脂質放出は2方向性であり、その極性の規定には毛細胆管側の膜脂質二重層における流動性が関与し、その機序として膜構成リン脂質分子の脂肪酸構成制御が重要な役割を演じていると考えられる。
|