研究概要 |
これまでの研究で、レチノイン酸はラット小腸上皮細胞(IEC-6細胞)の肝/骨/腎型アルカリホスファターゼ(L/B/KALP)を誘導することを、さらに炎症性サイトカインであるIL-1βはこのレチノイン酸によるL/B/KALPの誘導を相乗的に増強することを見出した(論文投稿中)。本年度は、このIL-1βとレチノイン酸の相乗作用のメカニズムについて詳細に検討した。 まず、L/B/KALPの発現に対するレチノイン酸と他のサイトカインの相乗効果について検討した。M-CSF,TGF-β,TNF-αは、レチノイン酸によるL/B/KALPの誘導に何ら影響を与えなかった。IL-2,IL-4,IL-5,IL-6はレチノイン酸によるL/B/KALPの誘導を制御した。唯一、IL-1αのみがIL-1βと同様の相乗効果を示したが、その相乗作用はIL-1βの約20分の1であった。IL-1αとIL-1βは細胞表面のレセプターを共有しており、IEC-6細胞においてはIL-1の細胞内シグナルがレチノイン酸の細胞内情法伝達とクロストークしていることが強く示唆された。 また、レチノイドレセプター応答領域(RXRE)に対する結合能をゲルシフトアッセイで検討したところ、IL-1bはレチノイン酸により誘導されるRXRE結合活性を著しく増大させた。さらに、IL-1とレチノイン酸によるL/B/KALPの発現に対する相乗作用は、db-cAMP添加によりさらに顕著になったので、protein kinase A(PKA)がこのクロストークのkey stepと考えられた。これらの結果は、PKAによりリン酸化したレチノイン酸レセプターはDNAへの結合能を増強するというChambonらの報告とも一致した。 IEC-6細胞のレチノイドレセプター(RAR,RXR)とIL-1レセプターのmRNA発現量をNorthern blot法とRT-PCR法で解析した。RARα,RARβ,RXRα,RXRβのmRNAの発現量はIL-1βの同時添加により著明に増加したが、RARγ,RXRγはほとんど変化しなかった。一方、IL-1レセプターもレチノイン酸とL-1βの添加で変化しなかった。以上のレセプターの中で、RARβmRNAの変動が最も著しくL/B/KALPの発現の経時変化に最も一致しているので、IEC-6細胞のALPの発現にはRARβが重要な働きをしていることが示唆された(以上、論文投稿中)。 現在、ヒト腸上皮細胞(Caco-2細胞)におけるL-1βとレチノイン酸との相乗作用を解析中で、この場合ALPではなくcysteine proteaseが相乗発現することを見出している。小腸上皮細胞にはこのようなサイトカインとレチノイン酸の相乗的な遺伝子発現の調節機構が存在している可能性が高いと考えている。今後、サイトカインのトランスジェニックマウスなどを用い、in vivoでその存在を明らかにしたい。
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