平成10年度の研究では主に一酸化窒素による胃粘膜培養細胞障害についての詳細についての検討をおこなった.一酸化窒素を胃粘膜培養細胞液中に添加すると、細胞増殖は濃度依存性に抑制され、低濃度の一酸化窒素ではアポトーシスが、比較的高濃度ではネクローシスが誘導された.低濃度の一酸化窒素による細胞増殖抑制には細胞周期でのG2/M停止が観察されたが、細胞周期とアポトーシスとの関連は観察されなかった.一酸化窒素により細胞内グルタチオンは急激に減少し、その後に細胞内活性酸素産生量が増加し、細胞障害機構に酸化的ストレスの関与を明らかとした.実際に、酸化的DNA損傷の指標である8-OHdGは増加しており、Helicobacter pylori感染時のヒト胃粘膜で上昇している8-OHdGの生成機構に一酸化窒素の関与を示唆するものであった.このような一酸化窒素により生じる胃粘膜細胞のアポトーシスは、酸化的DNA損傷から生体を守る生体防御反応の一つである可能性もあり、その胃粘膜幹細胞レベルでのアポトーシスが胃粘膜萎縮につながるものではないかと考えられる. このような一酸化窒素によるDNA障害、胃粘膜障害に対して抗酸化剤がその障害を抑制できるのではないかと考え、いくつかの候補について検討を行った.そのなかで、新規水溶性ビタミンE誘導体や食品因子としてのカキ肉エキスに抑制作用が認められた.水溶性ビタミンE誘導体は一酸化窒素による8-OHdG生成を有意に抑制した.また、カキ肉エキス製剤は一酸化窒素による胃粘膜培養細胞障害を有意に抑制し、その作用機構に細胞内グルタチオン合成促進による還元型グルタチオンの増加が関与していることを明らかとした.
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