ヘリコバクターピロリ菌(Helicobacter pylori:以下H.p.と省略)はヒト胃粘膜に感染するグラム陰性螺旋状桿菌であり、消化性潰瘍、慢性活動性胃炎への密接な関与が報告されている.本邦におけるH.p.に関する研究開始は比較的遅かったものの、最近になりH.p.genomeの全解析がなされ多くの研究成果が得られている.しかし、慢性萎縮性胃炎とH.p.感染との関連についての研究は比較的少なく、疫学的に、その両者の因果関係が推定されているにすぎない.本研究では、H.p.感染の病態において好中球活性化を介したフリーラジカル反応が関与していることを報告してきた従来の研究を発展させ、フリーラジカルによる胃粘膜培養細胞障害の機構について以下の点を明らかにした. まず、ラット正常胃粘膜上皮細胞を培養し、種々の活性酸素種、活性窒素種を培養液中に添加し細胞増殖能について検討した.各濃度について検討を行ったが、極めて低濃度でも細胞増殖亢進作用は認められず、濃度依存性に増殖は抑制された.高濃度では、細胞死の形態はネクローシスとして認められ、低濃度ではアポトーシスの形態で観察された.活性種の比較では、活性酸素種ではモノクロラミン、過酸化水素に障害性が比較的強く、活性窒素種では一酸化窒素により障害が惹起された.次亜塩素酸とH.p.の産生するNH_3により生成されるモノクロラミンがH.p.感染時の胃粘膜に対する強力なOxidantとして注目されているが、モノクロラミンによる増殖抑制についてはその詳細の解析を行い、増殖抑制は細胞回転におけるG2/M停止とアポトーシスによることが明らかになったが、両者の関連については明らかでなかった.一酸化窒素による胃粘膜培養細胞障害についても、その障害機構について詳細な検討を行い、細胞内グルタチオンの重要な役割、機能性食品としてのカキ肉エキス剤が細胞内グルタチオンを増加させ、活性酸素や一酸化窒素による細胞障害を軽減することを明らかとした. 3年間という研究期間の大部分は、アポトーシスやネクローシスの評価法の確立を含めたin vitroにおける活性酸素動態の検出法の確立に終始し、研究の内容を若干縮小せざるを得なかった。ヘリコバクター感染病態を炎症面から評価し、その細胞死と胃粘膜萎縮の関連に迫りたいという新しい研究分野に、文部省から科学技術研究費補助金の交付を受けたことをここに記して、謝意を表する次第である.
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