研究概要 |
基礎的検討:Helicobacter pylori (Hp)産生サイトトキシンのサイトカイン産生に及ぼす影響を、ヒト末梢血より単離、培養した単球を用いて検討した。その結果、Hpの水溶性抽出物はヒト単球からのTumor necrosis factor αおよびInterleukin 1β (IL-1β)の産生をmRNAレベルで促進した。しかしその作用はCagA,VacA陽性株とCagA,VacA陰性株とで有意な差は認めなかった。すなわち、Hp産生サイトトキシンはサイトカイン産生刺激には関与していないと考えられた。また、Hp感染により増加したこれらの炎症性サイトカインが胃潰瘍再発を惹起することを我々はラット酢酸潰瘍を用いて既に報告している。今回さらにその潰瘍再発の機序を解明する目的で、ケモカインの動態も検討した。その結果、IL-1βによる潰瘍再発時に潰瘍瘢痕部でケモカインの一種であるmacrophage chemotacting protein-1 (MCP-1)のmRNA発現が亢進し、単球の浸潤が増加していることを明らかとした。すなわちHpによる潰瘍再発にMCP-1が関与している可能性が示唆された。 臨床的検討:基礎的検討により好中球、単球などの炎症細胞浸潤がHp感染による潰瘍再発に重要な意義を有していることが明らかにされた。その臨床的応用として、胃粘膜防御因子増強薬剤であるrebamipideの作用をHp除菌治療と比較検討した。その結果、rebamipideはHp除菌作用は発揮しなかったが、Hp除菌治療と同等の胃粘膜炎症細胞浸潤抑制作用を発揮し、潰瘍再発も抑制した。なお、rebamipideはHp除菌治療に併用することにより、Hp除菌率の上乗せ作用を発揮した。これらの結果は、胃粘膜防御因子増強薬剤の潰瘍治療およびHp除菌治療における重要性を明らかとするものであり、その臨床的意義は大きい。
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