ヘリコバクター・ピロリ感染は胃炎の主因であり、長期にわたるヘリコバクター・ピロリ感染の持続は胃癌の発生とも関連している可能性が強い。ヘリコバクター・ピロリ感染のコントロールのためには感染予防が最も重要であり、そのためにはヘリコバクター・ピロリの感染経路に関する理解が不可欠である。疫学的なデータからは糞口感染、あるいは口口感染の形での経口感染が推定されてはいたが不明の部分も多かった。我々は先に、ヒト口腔内、便中のヘリコバクター・ピロリ存在の可能性についてもPCRを用いた遺伝子学的方法で検討し、胃粘膜のみでなく口腔内にもヘリコバクター・ピロリがかなりの割合で存在することを示してはいたが、便検体からヘリコバクター・ピロリを検出することはまれであり、はたして便を介して環境中に排出されたヘリコバクター・ピロリが他への感染の原因となりうるかは疑問でもあった。今回、ヒト便検体中のヘリコバクター・ピロリ菌体を抗ヘリコバクター・ピロリ抗体で分離したあとPCRを行うことで便検体からのヘリコバクター・ピロリを効率的に検出するアッセイ系を開発した。PCRのターゲットもヘリコバクター・ピロリにより特異的と考えられるサイトトキシン遺伝子とした.本邦の中高年者200名以上を対象として検討した結果、これらの患者の便検体の50%以上でヘリコバクター・ピロリか存在していることが示された。したがって、ヘリコバクター・ピロリの感染率が高く、かつ衛生状態の悪い地域では容易に糞口感染が起こりうる可能性が示され、特に年少期におけるヘリコバクター・ピロリ感染の大半はこのような経路で起こっていることが想像された。本研究で得られた成績は、ヘリコバクター・ピロリ感染をコントロールし、胃粘膜の老化、癌化を予防するための基本的なデータとして有用と考えられる。
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