ヘリコバクター・ピロリ感染は慢性胃炎、消化性潰瘍の主因であり、長期にわたるヘリコバクター・ピロリ感染の持続は、胃癌、あるいは胃MALT(mucosa-associated lymphoid tissuue)リンパ腫の発生とも関連している可能性が強いと考えられている。胃粘膜の粘膜免疫機能は不十分であるため、ヘリコバクター・ピロリ感染により生じる胃粘膜での炎症・免疫反応は、ヘリバクター・ピロリを胃粘膜から除去することができない。それのみならず、副次的にこれらの炎症反応の持続により胃粘膜上皮が傷害を受けたり、あるいは胃粘膜上皮細胞機能が変調をきたすなどホスト側にとって不都合に作用している可能性が少なくないと思われる。本研究では、ヘリコバクター・ピロリ感染による胃粘膜での炎症・粘膜免疫反応に際して、胃粘膜局所における産生量が著しく増大している活性酸素代謝産物の胃粘膜上皮細胞機能に与える影響を検討した。これらの研究の結果、過酸化水素などの活性酸素代謝産物により胃粘膜上皮細胞においてNF_<-k>Bなどの転写因子が活性化されており、それにともないinterleukin-8などの遺伝子発現が亢進していることが明らかとなった。また、炎症性サイトカインなどにより刺激されたinterlenkin-8の発現は抗酸化剤により抑制されることも明らかとなった。Interleukin-8はヘリコバクター・ピロリ感染時に炎症を惹起する中心的なケモカインであるが、細胞内外の酸化還元環境によりその発現が大きく影響されることは、ヘリコバクター・ピロリ感染における胃粘膜の老化、癌化の問題を考える上でも重要であると思われた。
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