温度依存性に増殖・分化が誘導される肝がん由来のHepG2 SV40^<ts> T hepatocyteは33℃で増殖し39℃にて増殖を停止するという性質を有している。この細胞を33℃で72時間39℃にて24時間培養後BrdU labeling indexを算出した結果、前者は26.7±0.28%、後者は2.6±0.76%と33℃で有意に増殖することが確認された(p<0.005)。 各々の状態にある細胞をcomitogenであるphenylephrineで刺激した後に上述の方法で〔Ca^<2+>〕iを観察したところ、39℃で培養した非増殖肝細胞では〔Ca^<2+>〕iの持続的な上昇を認め、細胞外Ca^<2+>の除去によりその上昇持続時間は短縮した。一方、33℃で培養した増殖肝細胞においては細胞外Ca^<2+>の有無にかかわらず〔Ca^<2+>〕iは一過性の上昇を認めるのみで持続的な上昇はみられなかった。 また隣接肝細胞間での〔Ca^<2+>〕i反応の位相は、39℃では同期していたのに対し33℃では一致していなかった。さらにいずれの〔Ca^<2+>〕i反応においてもphenylephrine濃度にかかわらず〔Ca^<2+>〕i oscillationsは認められなかった。 以上より、がん細胞増殖の過程におけるphenylephrine刺激後の〔Ca^<2+>〕i動態は、部分肝切除後肝再生過程および生理的肝細胞増殖・分化の過程と異なっていることが明らかとなり、増殖機構の違いによる細胞内シグナルトランスダクションの多様性が示唆された。
|