研究概要 |
1.活性型K-ras遺伝子を有する膵癌細胞株の樹立と遺伝子解析 60才、女性の膵癌患者腹水中より膵癌細胞株Pca-Sを樹立した。遺伝子解析によりK-ras遺伝子コドン12にGGT(Gly)からGTT(Val)へのpoint mutationを認めた。 2.アンチセンスオリゴヌクレオチドの細胞増殖に対する影響 K-ras遺伝子のコドン12のpoint mutation部位を中心として、15mer,17merのホスホロチオエ-ト型アンチセンスオリゴDNA(AS)を作製し、in vitroにおけるPca-S細胞に対する増殖抑制効果を様々な条件下で検討した。増殖抑制効果はMTT assayにて解析した。コントロールとしてセンスオリゴDNAを用いた。day0,day1に1、5、10、50μMの濃度でASを添加、day4に測定したところ、10μM以下の濃度ではコントロールに比し有意な増殖抑制効果がみられた。しかし、50μMの濃度ではコントロールでも著明な増殖抑制作用があり、非特異的なcytotoxic effectと考えられた。またday0のみASを添加したところ、コントロールとの差は明らかではなかった。さらに7日目にMTT assayを行ったところ、細胞増殖はコントロールより促進されていた。これはK-ras遺伝子発現がASによる抑制効果に抗して、up-regulationされたのと考えられ、その機序につき現在検討中である。 以上のことから、K-ras遺伝子を標的としたアンチセンスDNAの細胞増殖効果はある程度認められたものの、in vitroにおいてさえその効果は限定的なものであった。またその効果も持続せず、実際の遺伝子治療では長期に持続的にアンチセンスを発現するようなベクターが必要になると考えられた。
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