研究概要 |
[目的]P糖蛋白は肝癌細胞の毛細胆管側膜に発現し、制癌剤の輸送に関与するmulti-drug resistance-1遺伝子産物として注目されている。昨年度はラット肝化学発癌モデルにおけるグルタチオンS-トランスフェラーゼ(glutathione S-transferase,GST)-πの発現を検討したが、今年度は同じモデルについてGST-πとP糖蛋白の発現を免疫組織化学的に比較検討した。[方法]Wistar系雄性ラットにdiethylnitrosamineを200mg/kg1回腹腔内投与後0.05%含有飲料水を自由摂取させ、2週、6週、10週、14週後に犠牲死させた。また、diethylnitosamine投与開始1週間前にcysplatinを4mg/kgまたはepirubicinを3mg/kg前投与し、その後上記と同様に処理した。いずれの群も肝を摘出、肝組織標本を作成し、HE染色と、GST-πならびにP糖蛋白の免疫組織染色を行い光顕にて検鏡した。免疫組織染色は製品化された抗GST-π抗体と抗P糖蛋白モノクロナル抗体を一次抗体として用いた。[成績]組織形態は2週目では散在性に肝細胞の空胞変性、巣状壊死が認められた。6週目では空胞変性を伴った結節化病巣を認めた。10週目以降では多数の過形成結節と明らかな核異型を伴う癌化病巣を認めた。GST-πの発現は前回と同様に過形成性結節で強陽性で、発癌の進展とともに減弱していく傾向が認められた。P糖蛋白の発現は2週目から主に変性肝細胞の毛細胆管側膜に認められ、6週目以降の過形成結節内の細胞では顕著に認められたが、10週目以降の癌細胞ではその発現は極めて低かった。なお、cysplatinやepirubicinを前投与したラットは6週目までに死亡したため、評価できなかった。[結論]ラットの化学発癌過程におけるP糖蛋白の発現はGST-πと同様、前癌病変である過形成結節で著しく、癌細胞ではむしろ低減することが確認された。P糖蛋白の発現意義については、次年度各種制癌剤を減量して前投与および発癌後投与により検討する余地がある。
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