[目的] P糖蛋白は肝細胞の毛細胆管側膜に発現し、制癌剤などの輸送に関与するmulti-drug resistance-1遺伝子産物である。その発現はヒト肝細胞癌に著明で(Cancer 1994;73:298)、化学療法の反応性と逆相関した(J Gastroenterol Hepatol 1997;12:569)と報告されている。一方、過形成結節で強く発現し、肝細胞癌より強かった(J Hepatol 1995;22:197)との報告もある。しかし、これまで動物実験モデルによる基礎的研究は少ない。昨年度はラット肝化学発癌モデルについてグルタチオンS-トランスフェラーゼ-πとP糖蛋白の発現を検討し、両者は過形成結節で著しく、癌細胞ではむしろ低減することが確認された。今年度はラット肝化学発癌過程におけるP糖蛋白発現の推移と制癌剤による変化について免疫組織化学的に検討した。 [方法] Wistar系雄性ラット用いdiethylnitrosamine(DEN)を200mg/kg1回腹腔内投与後0.05%含有飲料水を自由摂取させた群(DEN群)、DEN投与1週前にcisplatin(CDDP)を2mg/kg腹腔内投与した群(CDDP+DEN群)、同じくepirubicin(EPIR)を1.5mg/kg腹腔内投与した群(EPIR+DEN群)の3群に分けた。コントロールとして無処置群、CDDP群、EPIR群の3群を設けた。DEN群の一部には10週目にCDDPまたはEPIRを投与し、それぞれDEN+CDDP群、DEN+EPIR群とした。DEN投与から4週、8週、12週後、各群3匹ずつエーテル麻酔下に心腔から採血し、同時に肝を摘出した。血液は血清分離後、AFPおよびTNF-αの測定に供し、肝組織はホルマリン固定後パラフィン包埋し、肝組織標本を作成、HE染色ならびにP糖蛋白の免疫組織染色を行い光顕にて検鏡した。 [成績] DEN群ではAFPは経時的に上昇したが、同時期のCDDP+DEN群、EPIR+DEN群、またはDEN+CDDP群、DEN+EPIR群のAFPは大差なかった。TNF-αは8週目のCDDP+DEN群、12週目のDEN群、DEN+CDDP群各1匹で高値を示した。DEN群の組織形態は4週目では肝細胞の変性と巣状壊死を、8週目では結節化病巣を、12週目では多数の過形成結節と大小の癌病巣(高分化型、一部低分化型肝細胞癌)を認めた。P糖蛋白の発現は無処置群、CDDP群、EPIR群ではほとんど認められなかった。DEN群では肝細胞の毛細胆管側膜に発現し、過形成結節では強い発現を認めたが、高分化型肝細胞癌では弱く、低分化型では認めなかった。CDDP+DEN群およびEPIR+DEN群ではDEN群より強い発現を認めた。DEN+CDDP群およびDEN+EPIR群では癌部にP糖蛋白の発現は認められなかった。 [結論] P糖蛋白の発現は、前癌病変である過形成結節で強く、癌細胞ではむしろ減弱した。またCDDPやERIRなどの制癌剤の前投与により初期の過形成結節でより強く発現した。
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