研究概要 |
Transforming Growth Factor-beta_1(TGF-β_1)は、一般に上皮系細胞に対して増殖抑制的に働く。ところが、多くの大腸癌培養細胞においてその悪性度(転移能、増殖能)が増すにつれTGF-β_1に対して不応性であることが報告されている。我々は、大腸腫瘍および大腸癌新鮮標本を用い、in situ hybridization,免疫組織染色法によりTGF-β_1およびその受容体の発現を検討し以下の結果を得た(Submitted for publication)。 1.正常大腸粘膜、大腸腺腫は、I,II型受容体messenger RNA(mRNA)、TGF-β_1蛋白の発現が確認された。 2.一部の大腸癌では、I,II型受容体mRNAの発現が、減少しているものがみられたが、TGF-β_1蛋白は大腸癌細胞上皮に強く染色された。 3.間質組織である血管や繊維芽細胞にTGF-β_1蛋白は強く染色された。 4.Northern hybridizationにより、mRNAの発現を確認したが、同様の結果が得られた。 以上の結果から以下の知見が推測された。 1.大腸癌細胞において、機序は不明であるが受容体発現が低下していることが、TGF-β_1に対して不応性となる原因の一つであることが推測された。 2.大腸腺腫から大腸癌に至る過程で受容体異常が起こっている可能性が示唆された。 3.TGF-β_1は新生血管や繊維芽細胞の形成に重要な役割を果たし、癌細胞の進展増殖に深く関与しているものと推測された。 現在、TGF-β_1シグナル伝達物質であるSmad蛋白について検討中であり、より詳細な癌化、および癌増殖について新たなる知見が得られつつある。
|