1.マウスにチオアセタミドを投与し、急性肝不全/肝性脳症モデルを作製し、以下の実験に供した。 2.中枢神経組織内でのperipheral-type benzodiazepine receptor (PBR)の局在、および脳症におけるPBRの量的、質的変動に関する成果 PBRの脳内局在性(大脳皮質や海馬、特に脈絡叢上衣細胞、星状細胞やグリア細胞)は脳症群と対照群において変化しなかったが、脳症群におけるPBR mRNA量は対照群よりも時間的かつ用量依存的に増加していた。人工リガンドを用いた解析の結果、脳症群では結合部位数が約1.5倍に増加したがKdの変化はなく、脳症群におけるリセプター数の増加はPBR遺伝子の発現誘導によるものと考えられた。 その他の実験結果も考え併せ、脳症発症時には生理的かつ定常的に機能しているPBR遺伝子の発現が誘導され、中枢型のGABAベンゾジアゼピン複合体と異なった機構で脳症の発症や進展に寄与していることが示唆された。 3.脳内PBRの内因性リガンドの同定に関する知見 遺伝子工学的手法により得られたPBRリコンビナント蛋白質は単独ではリガンドを結合せず、複合体を形成することによりリガンド結合活性を有することを明らかにした。精製したPBR複合体と脳症マウス血漿とのbinding assayあるいはcompetitive binding inhibition assayの結果から、複数の低分子のリガンドが候補に挙がっている。肝性脳症の患者血漿中にも類似のリガンドの存在が示唆されており、これらの分子の同定を急いでいる。 今後は臨床例における検討を重ね、脳症惹起PBRリガンドの診断への応用や、PBR結合阻止物質の脳症治療への応用の可能性についても充分な検討、考察を加える予定である。
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