平成9年度の研究計画に従って研究を行い、以下の成果を得た。 1.末梢型ベンゾジアゼピンリセプター(PBR)は大脳皮質、海馬、脈絡叢上衣細胞、星状細胞やグリア細胞に局在していることを、in situ hybridization法により明らかにした。PBRの中枢神経組織内局在性は、実験的急性肝障害・急性肝性脳症モデルにおいても対照群と比較して変化しなかった。 2.肝性脳症モデルにおいて脳内PBRmRNA量は対照群よりも増加した。人工ライガンドを用いた検索の結果、脳症群におけるPBRの増加はPBR遺伝子の発現誘導によることを明らかにした。 以上の実験成績から、肝性脳症発症時には脳内に生理的かつ定常的に機能しているPBR遺伝子の発現が誘導されること、またPBRが中枢型ベンゾジアゼピン複合体とは異なった機構により肝性脳症の発現や進展に寄与していることを解明した。 3.精製したPBR粗抽出物と人工ライガンドのbinding assayあるいはbinding inhibition assayの結果から、肝性脳症モデルにおいては、正常対照と比較して、血漿中あるいは脳脊髄液中のアミノ酸組成に特徴的な変動があることが示唆された。また、肝性脳症発現時にはジアゼバムあるいはベンゾジアゼピンとPBR複合体との結合を阻害し得る、比較的低分子のペプチドと考えられる分子種の増加が観察された。 以上の研究により、肝性脳症における脳内末梢型型ベンゾジアゼピンリセプターの内因性リガンドの候補を見出した。現在、臨床例における肝性脳症の予知や早期診断、さらには治療的応用について検討中である。
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