研究概要 |
サイモシンβ4はアクチン隔離蛋白としての機能が見出されているが、我々は肝癌細胞の増殖や分化との関係における遺伝子発現の検討、アクチン・ファイバーの形態学的変化の観察、遺伝子発現の調節のための基礎実験を行った。その概要は次の通りである。 1)種々の肝臓癌細胞株の細胞増加相においてサイモシンβ4遺伝子の発現量に差があり、HLE,>Chang liver cell,>PLC/PRF/5,>HuH7,>HepG2の順に発現が多かった。 2)肝癌細胞回転に関係したサイモシンβ4遺伝子の発現については48時間の血清除去後、15%のFBSを加える系にて、PLC/PRF/5細胞、HuH7細胞両方で血清除去中は発現が低下し、15%のFBSを添加すると発現が増加し、これらの細胞では細胞回転に依存が見られた。 3)細胞分化時のサイモシンβ4遺伝子の発現については、PLC/PRF/5細胞に1μMのall-trans retinoic acidの添加で同遺伝子の発現は一過性に増加しその後減少した。1μMの9-cis retinoic acidの添加でも若干の発現増加の後減少がみられた。一方HuH7細胞では1μMのall-trans retinoic acid、1μMの9-cis retinoic acid、1mM sodium butyrate全てで発現の増加が見られた。またHepG2細胞では1mM sodium butyrateの添加でサイモシンβ4遺伝子の発現増加が見られた。以上の結果は他の臓器の悪性細胞での分化時の発現パターンと類似していた。 4)肝癌細胞株に1mM sodium butyrateを添加した状態でのアクチン・ストレスファイバーの形態学的変化を、phalloidin-FITCを用いた蛍光色素による染色で観察すると、対照と明かな変化が見られ、7日後には明瞭なストレスファイバーの形態が見られた。sodium butyrateは肝癌の分化促進因子として有望と予想される。 5)Trans-Port^<TM>を用いたoligodeoxynucleotidesの細胞導入実験、遺伝子導入のための基礎実験ではでは、細胞生存率の変化など解決すべき問題が多く限定的な結果であり、現在実験はなお進行中である。
|