我々はH.pylori感染に対する病態の違いを宿主側に求め、宿主の免疫遺伝学的違いがH.pylori感染に対する病態の違いに関与すると考えた。今回の研究では宿主側の免疫応答に重要な役割を担うクラスII HLAであるHLA-DQAとDQBのタイピングとH.pylori感染との関係をH.pylori感染陰性健常者46例、H.pylori感染陽性表層性胃炎36例、H.pylori感染陽性萎縮性胃炎85例、H.pylori感染陰性胃癌23例、H.pylori感染陽性胃癌59例で検討した。HLA-DQAの対立遺伝子頻度においてH.pylori感染の疾患多様性と関連が認められた。すなわち、対立遺伝子DQA1^*0102の頻度が、H.pylori感染陰性健常者(0.228)及び萎縮性胃炎を伴わないH.pylori感染陽性表層性胃炎(0.306)において、H.pylori感染陽性者萎縮性胃炎(0.090)及びH.pylori感染陽性分化型胃癌例(0.057)に比べ、有意に高いことが認められた(p<0.005)。このことは、慢性胃炎が惹起され、それが持続することで萎縮性胃炎へと移行し、分化型胃癌の発生母地に向かうH.pylori感染における病態に、宿主側免疫遺伝学的背景因子が関与していると考えられ、HLA-DQA1遺伝子がこの背景因子に関与する遺伝子の一つであり、対立遺伝子DQA1^*0102は萎縮性胃炎への病態に抵抗性に作用し、対立遺伝子DQA1^*0102を持たない者はH.pylori感染による胃粘膜萎縮への危険因子と考えられ、その相対危険率は3.45であった。
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