前年度の、手術肺より得たヒト気管支を用いたin vitroの実験にて、1)IgEがコリン作動性神経刺激による気管支収縮反応を増強すること、2)その機序として、ムスカリン2受容体の機能不全による神経末端からのアセチルコリンの過放出が考えられることが明らかになった。今年度は、この機序が実際、生体でも働くかどうかについて検討した。 喘息患者では、気道内径の初期値や炎症程度にばらつきがあり、IgEによるコリン作動性神経機能への影響を、気道径をパラメーターとして検討するのが困難なため、気道疾患を持たないアレルギー性鼻炎患者及びアトピー性皮膚炎患者を対象とした。コリン作動性神経機能亢進の程度に関しては、抗コリン剤吸入による気道拡張効果(1秒量の変化)を非特異的気管支拡張剤(β_2刺激剤)の効果と比較して評価した。さらに、気管支平滑筋レベルの反応をメサコリン吸入に対する過敏性(PD200)で検討した。IgEに関してはRAST及びRISTスコアを用いた。 %FEV_1は血清総IgEと有意な逆相関を示した。抗コリン剤によるFEV_1の増加量はアレルギー性鼻炎の高IgE群で155±20mlと、低IgE群(82±21ml)及び健常者(64±21ml)より有意に大きかった。一方、β_2刺激剤によるFEV_1の変化は3群間で差がなかった。さらに、アトピー性皮膚炎患者の高IgE群での抗コリン剤によるFEV_1の改善程度は、健常人と差がなかった。PD200と抗コリン剤による反応性との間には、有意の相関はなかった。 以上の結果より、1)アレルギー性鼻炎患者において、IgEが下気道のコリン作動性神経の機能亢進をきたし、2)その機序として神経末端からのアセチルコリンの過放出が示唆された。
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