研究概要 |
肺腺癌を含む非小細胞肺癌の患者群の腫瘍における、癌抑制遺伝子p53の初期反応遺伝子群の異常を検出するために、まず、p53の標的遺伝子の産物であるp21Wafl/Cipl(以下p21)とMDM2の発現を病理学的に比較し、それらの臨床上の意義を検討した。 123例の非小細胞肺癌(うち腺癌75例,61%)の組織切片をクエン酸処理し、p53(Dako,DO7),p21(Oncogene Science, Ab-1)およびMDM2(Oncogene Science)の免疫組織染色を行ない、抗体陽性腫瘍細胞の分布率を求め組織形態と比較した。さらに、喫煙歴、病期、転移が出現するまでの期間、生存期間等の臨床的な解析もあわせて行ない、以下の結果が得られた。 (1)病理組織上の陽性率は全体でp53が39%,p21が25%,およびMDM2が18%であった。 (2)MDM2の陽性腫瘍細胞の分布はp53,p21の分布とそれぞれ相関したが、p53とp21の分布間には相関を認めなかった。 (3)臨床的には、病期がStage IからIIIAまでの患者のp53蛋白陽性群で、転移が出現するまでの期間が短く、生存期間も有意に短かいことが示された。 (4)MDM2の場合もまた、早い病期の患者の陽性群で予後が悪く、IIIB,IV期の患者群での高い陽性率を示した。 (5)p21には臨床上特に有意な因子を認めなかった。 現在は、これらの検体を対象として,さらに,p53の遺伝子異常とp53の初期反応遺伝子として知られるGadd45の遺伝子異常の解析を継続している。
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