肺組織傷害の発症には、肺胞滲出好中球とそれが放出する組織傷害性のプロテアーゼや活性酸素などが深く関与している。現在までこれらに有効な治療薬が開発されておらず予後は依然として極めて不良である。我々は、肺胞領域に存在する好中球機能抑制因子に着目し研究活動を進めてきた。その研究成果として、肺サーファクタントおよび肺胞II型細胞がヒト好中球機能を抑制することを報告した(研究実績参照)。またラット肺胞洗浄液から遠心により細胞成分およびサーファクタント成分を除去した上清中なも、ヒト好中球スーパーオキサイド産生および接着を抑制する生理活性物質が存在することを見い出し報告した。この抑制活性は、100℃、10分の熱処理にて失活したことから、蛋白性抑制因子であり、またSODのような消去剤とは異なる新種の活性物質と考えられ、好中球抑制因子として非常に期待される。 平成8年度の研究計画では、ラット肺から抑制物質を精製しそれをさらに特徴付けすることであった。肺洗浄液可溶成分中には遊離型SP-AやSP-Dが存在し、これらサーファクタント特異蛋白にも近年免疫調節作用が報告されていることから、まずこれらの好中球抑制作用について検討した。SP-AとSP-Dに対する中和抗体を用いて抑制阻止試験を行ったところ、肺洗浄液可溶成分による抑制効果は影響を受けなかった。従って、これらサーファクタント蛋白の関与の可能性は低いと考えられた。また、カラムクロマトグラフィーによる分子量の推定では抑制作用のピークは、200-300kDa付近にあり既存の蛋白とは異なる可能性が高い。一方、抑制性のサイトカインであるTGF-βにも好中球抑制作用が報告されているので、現在は、TGF-βの好中球抑制作用の有無、この可溶性分画中のTGF-β含量、さらには抗TGF-β抗体により中和試験などを行っている。来年度はこの物質に対するモノクローナル抗体作製へ進展する予定である。
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