私達は、私達の発見したKL-6(MUC1ムチンに属す)に対して自己抗体が血清中に存在することを新たに発見した。ムチンに対する細胞性免疫反応は、腫瘍抑制的に働く可能性が指摘されているが、抗体反応は必ずしも抑制的に働くわけでなく、腫瘍増殖促進的に働く可能性も古くから指摘されている。本研究の目的は、この抗MUC1自己抗体の存在あるいは多寡が肺癌患者の予後因子として何らかの意義を有するか否かについて検討することである。 本年度は、検討可能な症例数を増やすことを第1の目的としていた。肺癌症例の予後研究であるので、手術適応のない進行期肺癌を対象症例としても最低3年間の治療経過を観察する必要がある。本研究は僅かに2年間の研究期間であるので、過去の症例を後ろ向きに検討せざるを得ない。そこで、多数の症例の蓄積のある関連共同研究施設の選定を行なっている。このような施設はそれほど多くなく、治療開始前の血清を保存し、しかも保存状態の良い血清である必要がある。この点で苦労しているが、何とか検定可能な症例数の確保はできそうである。 また、本研究の対象症例の抗KL-6自己抗体の測定に必要な量のKL-6抗原の精製を試み、十分量の精製KL-6を得た。 血清中抗KL-6自己抗体の定量的測定のため間接酵素抗体法の検討を行い、96穴マイクロテストプレートを用い、IgG、IgM分画の測定に必要な測定系の確立に成功した。現在、これまでに集積した血清の測定を実施中である。 平成9年度には、今後集積される症例の測定を行うとともに、抗体価の経時的推移を治療法との関係、全身状態との関係などから詳細に検討していく予定である。
|