近年、多くの感染症において、微生物自身のストレス蛋白質(HSP)が宿主免疫機構における主たる確認抗原になることが報告されている。また、HSPはワクチンとしての可能性があることが示唆されている。しかし、AIDSなどの日和見感染症として重要な原因菌であるCryptococcus neoformansのHSPの役割はよく分かっていない。我々はWestren blotting法を用い、肺感染モデルマウスの血清ならびに肺クリプトコックス症患者血清中に菌体のHSPに反応する抗体の有無を検討した。 感染マウス血清中には、菌体蛋白に反応する数種の抗体(77、36、22kDaなどに対する抗体)が認められた。そのうち77kDaの蛋白はimmunodominantであり、抗体を用いた実験やアミノ酸配列より77kDaの蛋白はHSP70familyであることが考えられた。以上より肺感染症モデルにおいてC.neoformansのHSP70は免疫応答における認識抗原と考えられた。 肺クリプトコックス症患者における検討では、13/21症例(61.9%)に抗C.neoformans HSP70抗体が認められた。対照として使用した健常人血清では2/15症例(13.3%)、カンジタ感染症患者では2/10症例(20.0%)、アスペルギルス症患者では2/10症例(20.0%)、結核症患者では4/11症例(39.1%)に菌体のHSP70に反応する抗体が存在した。対照に比べ、クリプトコックス患者における抗HSP70の抗体の所有率は有意に高かった。対照群における抗体陽性は種を越えたHSPの相同性による交差反応と考えられた。以上の結果より、菌体のHSP70はクリプトコックス感染症における主要な認識抗原であることが示唆された。今後、ワクチンへの応用実験を行う予定である。
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