研究概要 |
慢性気管支炎・気管支喘息などでみられる気道粘液過分泌状態の発生機構を明らかにすることを目的に遂行中の本研究において,今年度は以下の結果を得た. (1)各種非腫瘍性肺疾患におけるsecretory leukoprotease(SLPI)の免疫組織化学的検討---上記病態に関わる有力な物質として好中球エラスターゼ(以下エラスターゼ)が知られ,その阻害剤としてのSLPIが臨床応用をも含め注目されている.しかし各種肺疾患においてその分布を免疫組織化学的にみた報告はほとんどない.今回,本大学剖検例より31例の非腫瘍性肺疾患を選び,ホルマリン固定パラフイン切片を用いて免疫染色を施した.抗SLPI抗体は帝人(株)より供与されたhalf-molecule recombinant抗体である.粘液・弾性染色も行った.症例の内訳は正常1,うっ血水腫3,肺気腫13,気管支炎7,気管支拡張症8,各種肺炎17,び慢性肺胞障害6,慢性間質性肺炎3,肺線維症3である(同一症例で複数病変あり総数とは不一致).気管支腺漿液細胞,表層粘液細胞に陽性像を認める点は今までの報告と一致した.陽性細胞の出現に関しAsanoらは肺炎と関連づけているが,むしろ単に粘液細胞過形成の出現部位に一致していると思われた.さらに,A)小葉中心性肺気腫のほぼ全例で,気腫部間質の弾性線維部に陽性像を認めたこと,B)高度好中球浸潤のみられる肺炎例の細気管支にて正常ではほとんど認めなかったクララ細胞にも陽性所見を認める例があったこと,が新たな知見であった.この結果は,エラスターゼ関連病変の形成にアンチエラスターゼとの拮抗関係の乱れが関与していることを推測させ興味がもたれる. (2)培養系における検討---Air-liquid interface培養法,脱上皮気管培養法により正常ヒト気管支ならびに細気管支上皮細胞(Clonetics Corp.より購入)を培養しエラスターゼ刺激による粘液過分泌状態の作製を試みているが,購入した細胞の増殖分化があまりよくなく,手術材料より細胞を回収することも考えている.
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