炎症性肺疾患病態への関与が強く疑われるケモカイン特にILー8の発症機序への関与および臨床への応用の可能性を検討するため、ILー8に対する複数の拮抗療法の開発と、in vitro、in vivoにおける作用を検討した。抗ILー8抗体に関しては、抗ウサギILー8モノクローナル抗体を精製し、その治療効果を確認するため、ウサギを用いたARDS実験モデルを作成した。本モデルで片側肺の虚脱後再膨張によりARDS類似の肺損傷が誘発され、肺局所でのIL-8産生が亢進していた。さらに抗ILー8抗体の静脈内前投与により肺傷害が有意に抑制された。一方対照抗体では抑制効果を認めなかったことより、本効果は抗体のIL-8に対する中和作用によると思われた。また経静脈的抗体投与により肺局所の炎症が抑えられたことから、抗ヒトIL-8抗体はARDSをはじめとする炎症性肺疾患に対する新たな治療法になり得ると考えた。一方他の抗IL-8療法として初年度はSオリゴ、2年度は第2世代オリゴを各々複数設計・合成し、細菌内毒素により刺激された単球系培養細胞のIL-8産生に及ぼす効果を検討したが、いずれも有意な抑制効果が得られなかった。その一因として、単球系細胞へのDNA摂取率が一般的に低いことも関係していると考えた。さらにアンチセンスDNAはその人工的に付加された側鎖によって種々の非特異的作用を生ずることが知られており、本研究で選別した塩基配列が不適切であった可能性以外に、Sオリゴや第二世代オリゴが非特異的IL-8産生を刺激し、本来のIL-8産生抑制効果を相殺した可能性等も考慮する必要があった。今後はオリゴDNAを単球細胞内へ効率よく摂取させる新たな手段の開発や、生体内半減期が長く標的遺伝子の転写を効率的に抑制し、かつ非特異作用を有しないアンチセンス分子の開発がさらに必要と思われた。
|