研究概要 |
呼吸器疾患の診断に用いられる聴診により得られる情報は、客観性に劣り、聴診者によりその所見は微妙に違い、情報の伝達量も限られる.病態の変化を肺音の変化として捉える場合にも、聴診の記録に頼る方法は曖昧で、再現性も乏しい.そこで我々は、肺音の客観的な評価のために、soundspectrograph、時間軸拡大波形、フーリエ解析による周波数分析などの解析法を用い、肺音計を開発した。そして、肺音の1つの咳嗽音に関して、解析を試みた。咳嗽は乾性咳嗽と湿性咳嗽に分けられるが、その客観的な計測方法はいまだ確立されていない。しかし咳嗽の記録とその性質に関する分析は、鎮咳薬、去痰薬の評価の上でも重要である。今回我々は、咳嗽音に関して,健常人の母音発声と自発咳嗽音、および慢性気管支炎患者と健常者の自発咳嗽をそれぞれ自由音場で収録し、開発した肺音計にて音響学的に比較検討した。その結果、母音発声では、主な周波数成分は4kHz以下であり、10kHzまでわずかに周波数成分が認められた。一方、自発咳嗽では、20kHzまで広く高周波数成分が広がっていた。また、健常人自発咳嗽および患者の乾性・湿性咳嗽のいずれの咳嗽も,2相あるいは3相の成分に分けることができた。咳嗽の第2相、第3相には低周波数域に横に広がる倍音構造が認められ、気道壁のflatteringないし声道響振系の関与が考えられた。特に湿性咳嗽時の第2相には、波形の乱れがあり、持続時間の有意な延長傾向を認め、またサウンドスペクトログラフではパルシブな成分が縦線として認められた。以上より咳嗽音の各位相の特徴を確認出来たことより、今後は聴覚に頼らず、開発している肺音計により科学的に各位相を分類し、比較検討することにより、咳嗽音以外にも,呼吸音、喘鳴、いびきの音解析と自動識別のシステム化が出来るようにさらに検討を加える必要があると考えている。
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