研究概要 |
運動ニューロン病では,近位軸索内に生じるスフェロイドが軸索輸送障害を示す所見として注目されてきた。報告者は速い軸索内輸送をになうモータータンパクであるキネシンと細胞質ダイニンに対するモノクローナル抗体をそれぞれ,複数個用いて,運動ニューロン疾患脊髄を染色した。これにより,先に報告したキネシンのスフェロイド内蓄積が確認された。それに対して細胞質ダイニンは多くの場合スフェロイド内には見られず,このことは,速い軸索内輸送障害の全般的な障害よると単純にはいえないことを示している。報告者はキネシン受容体としてキネクチンを発見し抗体を作成したが,ニワトリ神経系内の分布について検討した.培養神経細胞と同様に軸索内にはなく,軸索内のキネシン受容体はキネクチン以外であることがわかった. 軸索内に蓄積するニューロフィラメントとキネシンの関係を検討するため,イミノジプロピオニトリル(IDPN)中毒を作成した。これまでは,ラットで作成されることが多かったが,抗体の交差性の関係からニワトリで作成した。ラットの1/(10)量を2回投与することで安定して作成できることがわかった。その結果,キネシンはニューロフィラメントタンパクとともに軸索腫大内に蓄積することがわかった。IDPN中毒では運動ニューロン疾患で必ず見られる筋萎縮を生じないので,このことは,キネシン蓄積が運動ニューロン疾患を直接に引き起こしていないことを示唆している。 これまで設置したノアルスキー型微分干渉顕微鏡により軸索内輸送障害について検討した。はじめに,軸索内輸送小胞の速度分布について検討した。その結果,順行性も逆行性も毎秒5mnm以上の速い輸送が観察された。軸検索輸送障害は,2,5ヘキサンジオンを用いて行った。1%程度で軸索の部分的な阻害がえられ,この時,軸索の数珠上の変化が観察された。軸索内では,この時,小胞輸送は部分的に残存していたが,このことが軸索の腫大変化に重大な役割を示すものと考えられた。申請したレーザー照射による色素ラベルタンパク分子の不活化が可能になった。本法は対物レンズを100倍にして行うため,以前よりも小さな焦点レーザー光を集めることが可能になった。しかし,ラベル抗体をニューロン内に注入すると非特異的に細胞障害が起こるため,新たな抗体作成が必要であることがわかった。今後はさらに,非特異的な軸索輸送障害を作成することも含めて,レーザー色素不活化法の可能性を探りたい。
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