ガングリオシドGD1b感作による実験的ニューロパチーの病態解析と治療効果の検討

1996 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 08670695
• 研究種目: 基盤研究(C)
• 研究機関: 東京大学
• 研究代表者: 楠 進 東京大学, 医学部, 助手 (90195438)
• キーワード: ガングリオシド / ニューロパチー / 末梢神経 / ギラン・バレー症候群 / 糖脂質 / 感覚神経

研究概要

抗ガングリオシド抗体は自己免疫性ニューロパチー患者血中にしばしば上昇し、病態への関与が考えられる。なかもでGD1bのジシアロシル基を認識する抗体は、報告例の全てが感覚失調性ニューロパチーに伴うものである。このタイプの抗体がヒト後根神経節(DRG)の神経細胞を免疫染色したことから同抗体のDRG神経細胞への結合が病態に関与する可能性が考えられた。一方マウス抗GD1bモノクローナル抗体とウサギで作成した抗GD1b抗体(どちらもGD1bにのみ特異的に反応)はヒトDRG神経細胞を免疫染色した。これらのことから、DRG神経細胞に局在するGD1bを標的として抗体を結合し感覚失調性ニューロパチーをきたす可能性が考えられた。そこでヒトと同様DRG細胞にGD1bが局在するウサギにGD1bを免疫したところ、感覚失調性末梢神経障害を約50%の頻度で発症させることに成功した。初回免疫後約3-4週で抗GD1b抗体はピークに達し、発症例では5-10週で神経症状が発症した。病理学的には後根・坐骨神経・脊髄後索に軸索変性がみられ、DRGの一部の神経細胞に変性脱落が認められて、後索に線維をのばす深部感覚を伝える一次感覚ニューロンの障害による感覚失調性ニューロパチーであることが確認された。炎症性単核細胞浸潤はみられなかった。早期の病理所見をみるため抗GD1b抗体上昇後で神経症状発症前の初回免疫4-5週に4羽を殺処分して病理学的に検討したところ、2羽に上記所見が軽度にみられたが、やはり炎症性単核細胞浸潤はみられなかった。また発症後5ヶ月経過を追った1羽では、3-4ヶ月に症状の改善がみられ体重が増加したが、再び増悪し体重も減少した。抗GD1b抗体価も経過に対応して低下・再上昇がみられた。以上より抗GD1b抗体がこの実験的ニューロパチーの特異的な障害分布(深部感覚を伝える一次感覚ニューロンの障害)を規定する因子と考えられた。今後抗GD1b抗体による障害機序の詳細と治療に対する反応について解析していく必要がある。

研究成果

• [文献書誌] Kusunoki S,Shimizu J,et al.: "Experimental sensory neuropathy induced by sensitization with ganglioside GD1b" Annals of Neurology. 39. 424-431 (1996)
• [文献書誌] Oka N,Kusaka H,Kusunoki S,et al.: "IgM M-protein with antibody activity against gangliosides with disialosyl residue in sensory neuropathy…" Muscle & Nerve. 19. 528-530 (1996)
• [文献書誌] Kusunoki S,Mashiko H,et al.: "Binding of antibodies against GM1 and GD1b in human peripheral nerve" Muscle & Nerve. (in press).
• [文献書誌] Kusunoki S,Iwamori M,et al.: "GM1b is a new member of antigen for serum antibody in Guillain-Barre syndrome" Neurology. 47. 237-242 (1996)
• [文献書誌] Hitoshi S,Kusunoki S,et al.: "A novel ganglioside,9-O-acetyl GD1b,is recognized by serum antibodies in Guillain-Barre syndrome" Journal of Neuroimmunology. 66. 95-101 (1996)
• [文献書誌] 楠 進: "ニューロパチーと抗ガングリオシド抗体" 日本内科学会雑誌. 85. 629-634 (1996)