抗ガングリオシド抗体は自己免疫性ニューロパチー患者血中にしばしば上昇し、細胞膜表面抗原に対する自己抗体として病態に関与する可能性がある。われわれは一次感覚ニューロンに局在するGD1bガングリオシドをウサギに免疫して、実験的感覚障害性失調性ニューロパチーを作成することに成功した。病理学的には深部感覚を伝達する一次感覚ニューロンの軸索変性がみられた。血中に高力価の抗GD1b抗体が上昇する一方病変部へのリンパ球浸潤はなく、抗GD1b抗体が上記の特異的な一次感覚ニューロンの障害をきたす因子と考えられた。本年度は発症早期の病理所見を検討するため、抗GD1b抗体上昇後明らかな神経障害出現前の初回免疫4-5週の時点で殺処分したウサギについて病理学的検討を行った。その結果4羽中2羽の後根と後索に変性・空胞化しマクロファージの浸潤した軸索を少数みとめたが、リンパ球浸潤はみられないことが確認された。抗GD1b抗体の抗体クラスを検討すると、初回免疫約4週後にはIgM抗体がピークに達し、IgG抗体のピークがそれに続くが、症状出現はIgG抗体の上昇後にみられた。ウサギ後根神経節を抗GD1bモノクロナール抗体により免疫組織染色して、陽性細胞の径を検討した結果、陰性細胞と比較して大きいことがわかった。発症後5カ月経過をおった1羽のウサギでは、症状が一時寛解し再び憎悪したが、抗GD1b抗体価もそれに対応して低下した後再び上昇した。また3羽において急性期に頻回に採血を繰り返して経過をみたところ、抗体価は低下し症状にも明らかな改善が認められた。以上より本動物モデルでは、抗GD1b抗体(特にIgG抗体)がGD1b陽性の「大径神経細胞を細胞体としてもち深部感覚を伝達す一次感覚ニューロン」に結合することが発症メカニズムにおいて重要なステップであり、血中抗体の除去が有効な治療法となることが明らかとなった。
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