家族性アミロイドポリニューロパチーはトランスサイレチン(TTR)遺伝子の一塩基置換で発症する遺伝病であり、現在本疾患の原因となるTTR遺伝子変異は約50種類以上知られている。われわれは本研究を行うに当ってこうした多種類のTTR遺伝子変異をより簡便に検出する方法としてmass spectrometryを用いた血清診断法を確立した。すなわち血清中のTTRを抗TTR抗体で沈澱させ、その沈降物の質量を測定することによりTTRの異常を検出するわけであり、変異TTRが存在する場合は正常のTTRとの質量差で容易に検出できる。 本法を用いて中国四川省、綏化省、台湾ならび日本の複数の家族性アミロイドポリニューロパチー家系のTTR遺伝子の異常をスクリーニングし、最終的にはDNA sequenceを行って以下の異常を明らかにした。中国四川省の家系は33番目のPhe→Val(Val33TTR)、綏化省出身の家系は30番目のVal→Met(Met30TTR)、台湾の家系は97番目のAla→Scr(Scr97TTR)、国内の家系は38番目のAsp→Ala(Ala38TTR)であった。綏化省のMet30TTR家系は中国本土で初めて遺伝子異常が同定された家族性アミロイドポリニューロパチー家系であり、またAla38TTR家系は従来知られていない遺伝子変異である。過去の文献的報告例と合わせると、東アジア地区で報告されている本疾患家系は中国本土で2家系、台湾で2家系、韓国でVal38TTRの1家系があり、さらに日本国内では12種類の変異TTR型家系が知られている。 本研究で家族性アミロイドポリニューロパチーは民族を超えて種々な広がりを持つ疾患であることが確認され、特に東アジア地区にはこの疾患が多いことが考えられた。
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